プロジェクト概要

本プロジェクトの趣旨と取り組み姿勢

 「津軽デジタル風土記の構築」プロジェクトは、大学共同利用機関法人人間文化機構国文学研究資料館(以下、国文研と略記)が推進する「文献観光資源学」の中の柱の一つであり、全国に先駆けたモデルケースとして位置づけられているものです。共同研究であり、国文研弘前大学教育学部弘前大学人文社会科学部、及び津軽地方の公的資料所蔵機関である弘前市教育委員会(弘前市立弘前図書館・弘前市立博物館)、青森県立郷土館の五者が覚書を締結してその推進を図っています。

 本プロジェクトは、従来紙媒体で限られていた場所(研究機関・博物館・大学等)に集中していた地域資料、すなわち古典籍や古文書・絵図などの歴史資料、さらには固定的な碑文などもデジタル化しアクセスを容易にするとともに、紙媒体と併用することによって再資源化していこうというものです。つまり、津軽地域の歴史的資料の画像と情報をデジタル空間において体系的に連結し、新たな津軽の地域的価値、魅力を創造し、発信していこうとするもので、具体的には、今回、本プロジェクト推進に関する覚書を締結した各機関がそれぞれ所蔵する資料とこれまで培ってきた実績を合わせることで、新たなデジタル環境の構築、そしてそれを地域の資源として生かしていくという未来志向のプロジェクトです。

コンセプトは「本州最北端の風土記」

 津軽海峡によって分断された津軽は、行き止まりの地、文化果つる地であるという認識の存在は否定できません。しかし一方で、津軽は近世四つの口(長崎・対馬・薩摩・松前)の一つである「松前口」への渡航地であり、北方世界への出発点でもありました。人と人とを結び付ける海の機能もまた否定することはできません。この「行き止まり」と「出発点」の世界の中に津軽があったのであり、津軽の自然と向き合いながら、そこに生きた多様で多彩な人々の生活があったのです。このような思いから、本州最北端の津軽、しかしながら行き止まりではない津軽の姿を描いていくために「本州最北端の風土記」をコンセプトとし、「津軽デジタル風土記」のテーマのもと「本州最北端に生きた人々」をサブテーマとしました。これらを大きな枠組みとし、その下に(一)「津軽・北の思想と言説世界」(二)「津軽・北の自然と生活世界」の二つを置き、この枠組みが相互に関係し合っていることを踏まえながら、前者(一)の中に①藩主・藩士の知②学問と文芸③歴史編纂④生活の知、後者(二)の中に⑤生活の記録と図絵⑥信仰と宗教⑦祭礼と芸能⑧自然災害と飢饉、の各四つの具合的なテーマを設定しました。

資料デジタル化のあゆみと今後

 資料選定に当たっては、先のテーマ設定における代表的な資料を念頭に置きながらも、その上で①一般市民が興味を引けるような、また見る視点によって様々な発見が出てきそうな資料、②各所蔵機関において活用の度合いが高いにもかかわらず、資料の大きさや貴重資料のために閲覧に供しにくい資料、③本プロジェクトの一環として実施した「ねぷた見送り絵展」に関わっての資料・古典籍、をまずデジタル化することにしました。具体的には①は各地域の風景や諸行事、生活の様子を描いた図絵類等、②は大形の絵図類等、③は現在の弘前ねぷたの「見送り絵」のもとになった葛飾北斎らの挿絵が描かれている原典の古典籍です。古文書類についてはその上での基本資料に押さえることとしました。

  現在青森県内でそれぞれに行われている資料のデジタル化とその活用の仕方についても、各関係機関の所蔵資料の相互活用を図るための連携システムの構築が大きな課題といえます。県外・国外の関係機関もありますが、当面は県内各機関での連携を優先的に行うことから始めた方が段階的な取り組みとして、より将来的に発展性のあるものになるのではないかと考えています。