翻刻 弘前市立弘前図書館蔵『発句合外浜名所双六』
弘前市立弘前図書館蔵『発句合外浜名所双六』(YK911・3―104)は、製作者は未詳、享和三年(一八〇三)以降の制作と思われます。碇ヶ関を振り出し(スタート)とし、岩城山を上り(ゴール)とするもので、津軽の名所全53箇所について、挿絵に句を付けています。各句を弘前大学学生サークル「翻刻部」の学生が翻刻しました。便宜上、双六のマス目について、右上から(1)~(53)の番号を付しています。見出しの、進目数と行き先、発句、俳者名の順に翻刻しています。不読文字は□にしています。また各地の解説については、『津軽デジタル風土記資料集』(冊子版・PDF版)を御覧下さい。
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番号 | 見出しの地名 | 発句 | 俳者名 | 目数と行先 |
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1 | 猿賀 | 祝き事に むた華のなき 茄子哉 | 青柳 | 三 大圓寺 四 高岡五 愛宕 六 嶽温泉 |
2 | 笹清水 | 千代くと すゝめも泊れ 笹清水 | 柳枝 | 二 愛宕 三 猿賀 四 南溜池 |
3 | 耕田嶽 | 旭の恵み 耕す小田の みとりかな | 露泉 | 一 嶽温泉 三 青森 |
4 | 中野 | 吉野山 龍田もはちる 紅葉かな | 梅人 | 二 袰月 五 亀ヶ岡 六 高陣場 |
5 | 温湯 | 温泉の衣 着かへて 仰く 恵かな | 禄父 | 二 廻り滞留 一 経島 二 櫻林 三 権現崎 四 目屋沢 |
6 | 平内 | 船とめて 旭かけまばゆし 椿崎 | 一古 | 二 野内 三 青岩 五 高陣場 |
7 | 蟹田 | 幾千世も かわらて引や 鱈の網 | 素石 | 一 頭前桟橋 五 青森 六 龍飛崎 |
8 | 赤根澤 | 亀うつる 水なうれしや 澤の春 | 三英 | 三 権現崎 四 釜沢 五 大間越 |
9 | 龍飛崎 | 真帆かた帆 はてしら浪や 龍飛崎 | 涛松 | 一 深浦 三 小湊 五 大間越 六 浅虫 |
10 | 釜澤 | 春の澤邊 霞をこむや 鷗鳥 | 亀遊 | 二 森山 三 三馬屋 五 深浦 |
11 | 岩城川 | 陸奥の 富士のなかれや 今年鮎 | 瓢雅 | 一 愛宕 二 笹清水 三 上り |
12 | 大圓寺 | 春の日の 延ひた姿や 塔の影 | 浜園 | 二 岩木川 四 高岡 五 笹清水 |
13 | 高陣場 | 眼も霞む 遠の帆かけや 日のたるみ | 三連 | 三 経島 五 猿賀 六 温湯 |
14 | 青森 | 春風や 舷橋合ふ 湊入 | 渡春 | 一日滞留見物 一 耕田嶽 四 小泊 五 野内 六 中野 |
15 | 烏頭宮 | 夢蓑の岩 こゝろ頼し 春の雨 | 五里 | 一 深浦 二 十三 四 小泊 |
16 | 小湊 | 春雲の 空も長閑し 遠干潟 | 彦丸 | 一 浅虫 三 高陣場 四 今別 |
17 | 板留 | 温泉煙(ゆけむり)や 下萌はやき 草の艶 | 藤園 | 二廻り滞留 二 平内 四 耕田嶽 五 中野 六 安門瀧 |
18 | 三馬屋 | 驪(くろうま)の 蹄のあとや 春の草 | 劔盛 | 一 嶽温泉 二 頭前桟橋 三 金井沢 六 板留 |
19 | 宇鉄 | 底まても 曇らぬ御代の 春の網 | 貴富 | 二 釜沢 三 権現崎 四 蟹田 五 平内 |
20 | 今別 | 名に聞し 陸奥の浦半の 玉桜 | 烏橋 | 一 長濱 三 蟹田 四 三馬屋 六 七ツ瀧 |
21 | 岩城山 | 長閑さや 岩城にうつる 初日影 | 盤山 | 上リ |
22 | 乳瀧 | 糸ゆふや 世のにこりなき 瀧の音 | 耳風 | 一 鰺ヶ沢 二 笹清水 五 亀ヶ岡 |
23 | 頭前掛橋 | 波のひく 岩に追付く 春の風 | 維水 | 三 耕田嶽 四 十三 六 三馬屋 |
24 | 野内 | 雁かねや 花に戸さしぬ 春の□ | 六喜 | 一 切手を忘れ碇ヶ関へかくる 五 浅虫 |
25 | 袰月 | 石ひろふ 袖も霞むや 花の春 | 三笹 | 一日舎利を拾ふ 一 千年山 二 小泊 三 権現崎 五 青森 |
26 | 古懸山 | とふとさや 深山の奥の 不動尊 | 菱葛 | 三 温湯 五 森山 六 石川大橋 |
27 | 碇ヶ関 | 静さや 関屋に光る 花うつほ | 子高 | 福利出し 一つをふれは大鰐 二つをふれは剣ヶ鼻 三つをふれは志懸山 四つをふれは石川大橋 五つをふれは千年山 六つをふれは 宇鉄 |
28 | 目谷沢 | 如月や また炭売の 蓑衣 | 恣月 | 二 乳瀧 五 深浦 |
29 | 桜林 | 国民も しつかにうたふ 桜かな | 淇園 | 二 南溜池 三 乳瀧 五 頭前掛橋 六 長濱 |
30 | 亀ヶ岡 | 尽せしの 齢さゝけむ 亀か岡 | 翠松 | 一 鯵澤 二 百年山 四 中野 五 桜林 |
31 | 浅虫 | 浪のつみ うつやこゝそと 春の湯場 | 舞鶴 | 二 廻り滞留 四 赤根澤 五 長濱 六 板留 |
32 | 百年山 | 百年も 替らぬ松や 深みとり | 亀鶴 | 二 中野 三 七ツ瀧 五 釜澤 |
33 | 大鰐 | 御代ゆたか 真やにほふ 初若菜 | 九鳥 | 一 小湊 二 廻り滞留 三 劔ヶ鼻 四 百年山 五 金井澤 |
34 | 高岡 | 時津風 和らく国の 光かな | 青針 | 一 上り 三 溜池 五 岩木川 |
35 | 南溜池 | 雪解や 岩城に登る 池の魚 | 芦葉 | 一 大円寺 二 上り 四 猿賀 |
36 | 鰺ヶ沢 | 船数に 波もゆるかぬ 湊哉 | 得至 | 一日滞留見物 一 愛宕 三 大圓寺 四 小泊 六 桜林 |
37 | 長濱 | 長濱の 砂瀧ちらすや 雉子の声 | 露有 | 二 經島 三 平内 六 嶽温泉 |
38 | 十三 | 白魚や はるの光は あたらしき | 関鳥 | 三 青森 四 亀ヶ岡 五 温湯 六 今別 |
39 | 権現崎 | 引網に 霞こむるや 屋崎瀉 | 鵞柳 | 一 青岩 三 烏頭宮 四 鰺ヶ沢 五 十三 |
40 | 石川大橋 | 石川や 千代もと朽ぬ はし柱 | 則甫 | 二 百年山 五 平内 六 青岩 |
41 | 千年山 | 山の名の 千年を呼ふや 鶴の声 | 船釣 | 二 板留 四 袰月 五 森山 |
42 | 剣ヶ鼻 | 影ならふ 烟りや御代の うらゝかさ | 瓜丸 | 二 龍飛崎 三 赤根澤 六 金澤 |
43 | 安門瀧 | 春かすみ 仰けは高し 瀧の源 | 秀庵 | 一 岩木川 二 目屋澤 六 柴に暫く住居 |
44 | 愛宕 | あふき見る 木すへも高き みのりかな | 柏園 | 二 大円寺 四 岩木川 六 髙岡 |
45 | 嶽温泉 | 谷川や 温泉の香にぬるむ 水のおと | 芦角 | 二 廻り滞留 五 高岡 六 笹清水 |
46 | 経島 | 苔むすや 島もみとりの 春の亀 | 観我 | 三 岩木川 四 南溜池 六 野内 |
47 | 小泊 | 帆柱の 数にきわしき 泊かな | 松里 | 一 烏頭宮 二 浅虫 四 袰月 |
48 | 青岩 | 岩かとへ 霞打込め 浪の花 | 葵水 | 二 三馬屋 三 赤根沢 四 小湊 |
49 | 七ツ瀧 | 君が代や 七ツ瀧つも 音たへす | 静知 | 一 金井沢 二 赤根沢 五経島 |
50 | 金井沢 | 花曇り 魚の寄り来る 汐かしら | 五雲 | 一 大間越 三 蟹田 四 烏頭宮 |
51 | 深浦 | いさきよく 春をはこふや 帆かけ舟 | 葉枝 | 一日滞留見物 三 龍飛崎 五 青岩 六 乳瀧 |
52 | 森山 | 巌屈の 都になるゝ 燕かな | 三川 | 四 志懸山 五 今別 六 金井沢 |
53 | 大間越 | 日の影の ゆたかに長し 西の関 | 亭齊 | 二 宇鉄 三 小湊 四 大鰐 五 深浦 |
翻刻 国文学研究資料館蔵 『津軽信義公道中御詠歌』
(凡例)
- 底本は、国文学研究資料館蔵『信義公御詠歌自筆』四通のうち第四。
- 原典に題名がないため、書名を『津軽信義公道中御詠歌』とした。
- 便宜上、和歌に通番号を付した。
- 不読文字は□とした。
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番号 | 地点 | 和歌 |
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1 | 壱日江戸 | むさし野のたのむのかりのかり宿の 花を見すてゝかへる古里 |
2 | こしかい | うつせみのからのみはかりこしかいも なきは心を あとにとめきや |
3 | 三日 かすかへ | 藤咲て松にも花をかすかへの 夢のよわたるなさけなるらん |
4 | くりはし | わかせこにあふ坂山のさねかつら 人にしられてくりはしの関 |
5 | 四日 小山 | 春くれは道行ふりに小山田の 山田のくろに雁そ鳴なる |
6 | うつの宮 | あふ事もなゝきの波の打の宮 都の名のみなつかしきかな |
7 | 五日 うぢへ | 旅衣去かねてける名残哉 うちへの里の春の明ほの |
8 | 大田原 | いつしかと恋しき人に大田原 立にし跡を霞む空かな |
9 | 六日 あしの | あしのやのかくとも人につけのくし さしてもつらき世にしすまへは |
10 | こ田川 | 小田川の川瀬のいせきせきかねて もらすなみたの玉そ散ける |
11 | 七日 須か川 | あすか河ふちせに替る世中は 兼てたのめぬ契なりけり |
12 | たかくら | 旅衣立や霞の名にしおは きたゐに見ゆる高倉の峯 |
13 | 八日 二本松 | わかこのむ君か千とせを祝には たに名にしおくにほん松かも |
14 | せのうへ | あまの川あふ瀬のうへを渡るまも こひのこゝろは物うかりけり |
15 | 九日 かいた | 世をわたるわさとそ見ゆる足引の 山のかひたをかへすしつのお |
16 | かつたの宮 | 君か為かつたの宮の夕たすき たゝ一筋にいのるちかひか |
17 | 十日 のふちやう折句 | のくれつゝふもとのさとに契る夜は 山こへかたくうちなけきぬる |
18 | せきね | 山こへてきしのしつくにそほちつゝ 涙せきねに夜をあかしけり |
19 | 十一日てんとう | 君か為若なつみてんとそるのへの 霞の袖にあわ雪そふる |
20 | ふなかた | 一夜たに物うかりけりなみまくら ゆたのたゆたふふなかたの宿 |
21 | 十二日 金山 | 金山と聞はおこのふうはそくか みたけたうしの声やしなまし |
22 | いない | かくとのみ物思ふなる世中に いないの山の名のみなつかし |
23 | 十三日 ゆさわ | みにのくのゆさわのさとに花散て 道まかふなる春の比哉 |
24 | かねさわ | よしの山よしや人めをかね沢の さわ人のはのたへすおもへは |
25 | 十四日 大まがり | 人ゆへにみたれ初にし我恋の あふまかりきぬしのふもちすり |
26 | 同日新舟 かりはの | 折からにあらぬなりけり□の名の 秋田かりはのわたる舟人 |
27 | さかい | 東雲の雲のさかいを立出て 月日にかける旅の空かな |
28 | 十五日 としま | 東路のと嶋の川の渡しもり 舟こそるともこゝろせよかし |
29 | あぶ川 | あふ川や人たのめなる名なのみして 小舟こかれて見るめなき哉 |
30 | 十六日 かど | 門田うつしつか丸屋のあわれにも おもふ思ひにもる涙かな |
31 | のしろ | もかみ川のしろ渡りを見をくれは 跡は霞の立きえにけり |
32 | 十七日 八もり | ゆきかへり又見るへきとおもひきや 命なりけりはちもりのやと |
33 | 大まこし | しら雲の上飛かりともろともに われもこへ行大まこし山 |
34 | 十八日 ふかうら | 人しれぬたひにおもひは深浦の いそ打なみの跡そなつかし |
35 | にしめせき | そなたそと打なかめつる西のせき かたふく月のなきよ世なりとも |
36 | 十九日 あぢか沢 | 行くていつしかとおもふ鰺か沢 うらめつらしくおもほゆる哉 |
37 | 十腰内折句 | 常盤のに恋しきことをしらせはや なをさりなりをいもおもふらし |
38 | ひろさき | わかこのむ君かめくみのひろさきに 千とせちきりをまつそ久しき |